師の旅立ち
僕には唯一、師と仰ぐ人がいる。
15年程前東京に出てきてすぐの頃、声の技術を学びたくてヴォイストレーナーを探した。
何箇所もレッスンを見学した。
どこも僕にはピンとこなかった。
そんな時友人の紹介で師に出会った。
体の使い方で声を変える彼の教え方と強烈なキャラクターに直感した。
このおっさんに習いたい。
それから声の技術はもちろん、色んなものを教わった。
ジャンルにかかわらず一流の表現しか認めないとにかく温度の高い人だった。
クラシックに縁のなかった僕が、クラシック曲を歌うようになった。
3度破門にもなった。
2年前彼は病を患った、4度の手術の末、生死の境をさまよって奇跡的に生還した。
退院後、すぐにそれまでにもまして精力的に活動して夢を語った。
そんな彼に僕は軽い気持ちである提案をした。
「師匠 曲つくりましょうよ」
あっという間に詩、曲ができた。
「恋歌」
彼の初めての作曲だった。
昨年10月には僕のライブを観に来てくれ、ステージに呼び込んで彼のピアノで歌う事ができた。
リハなしでの演奏だったがお互いのイメージが瞬間で重なった。
師匠は言ってくれた 「たけし 幸せな時間やったなあ」
実はこの頃病が進行して ステージで両手を使って最後の演奏になった。
今年の正月明け 師は旅立った。
葬式の日、式場には彼の演奏した曲がながれた。
その中に「恋歌」も、腹の底から涙がこみ上げてきた。
どうしようもなかった。
涙まで腹式呼吸。
これから彼からもらったものを僕なりにつなげていきたい。
そして心の底から 師匠 ありがとうございました。
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